パリ天文台ほど近く、カルティエ財団現代美術館の裏手に、3ヘクタールを超える広大な敷地があります。17世紀から産科病院として使われていた場所で、建物の老朽化から2010年に閉鎖されましたが、跡地はパリ市と国による整備局Paris & Métropole Aménagementによって再開発されており、環境に配慮した地区として生まれかわる予定となっています。
現在は工事中となっていますが、2年前まで一部のエリアは、工事が始まるまでの間、Les Grands Voisins(レ・グラン・ヴォワザン、「偉大な・大きな、隣人たち」の意味)というパリの人々が集うユニークな仮設の実験的なコミュニティスペースとなっていました。2020年当時、ヨーロッパで最大級の仮利用のコミュニティスペースの運用計画だったそうです。
ここはパリの中でも私が最も好きだった場所の一つ。もうなくなってしまったのがとても残念です。このレポート自体はその場所があった当時のものなのでもう訪れることはできませんが、とても生き生きとした良い場所だったので、こちらにも記事として残しておきたく、『住まいマガジン びお』の記事から転載します。
場所は一見、通りからはただの古い大きな公共建築物に見えるのですが、一歩中に入るとそのカオスで独特な雰囲気に飲み込まれます。古い病院跡の建物の中に、移民の人たちの郷土料理を扱うレストランやエシカルな商品を販売する店舗、ジェンダー問題の展示を行うギャラリーなどがひしめき合い、毎週のように様々なイベントが繰り広げられています。独特の雰囲気を作り上げているのは、手作り感あふれるデコレーション、家具や仮設の構築物たち。この自由な雰囲気が好きで、定期的に訪れているのですが、来るたびにその辺にある構築物がなくなっては新たに別のものつくりあげられていて、まるで新陳代謝をする生き物のよう。来訪者も文字通り老若男女、人種も職種も関係なくパリ中からたくさんの人が集まり、穏やかな熱気に包まれています。
レポート時にはSaison2(第2期)として敷地北側のエリアが主に利用されていましたが、この場所は2010年からはAuroreというホームレスや移民への生活・社会復帰などの支援を行う団体によって、使われていない建物がホームレスや移民のための緊急シェルターとして利用されていました。また、2015年にはYes We Campという公共スペースを活性化するための団体がこの場所にシェアスペースなどをつくり、地域を巻き込んだ芸術・文化的なプログラムを行う場に発展。レストランも運営され、シェルターに住むホームレスや移民によって調理や給仕が行われました。さらにPlateau Urbainという使われなくなった建物などにプログラムを導入し活性化する団体も参加。2015年の終わりには一般にも解放されることになり、Les Grands VoisinsのSaison1(第1期)が開始。2017年にはSaison1の人気を受け、敷地の利用延期が決定され、2018年4月から26ヶ月を予定してSaison2がオープンしました。
当時運営されているSaison2も、2020年の6月で終了。6月以降は全エリアが工事対象となり、将来的には環境に配慮したエコ・カルティエ(écoquartier、quartierは地区の意)が誕生する予定です。敷地面積は3.4haで、現在ある建物の60%が保存されます。住宅は総面積43,140 m²で、そのうち50%がソーシャルハウジングに。他にも商業²、学校や保育園、スポーツ施設などが計画されており、13,160 m²にも及ぶ公共スペースも誕生する予定です。パリ市内の中でも有数の大規模な再開発となるため、どのような地区に生まれかわるのか今から楽しみです。(将来計画の概要とスケッチはこちら https://lesgrandsvoisins.org/les-grands-voisins/futur-quartier/)
ちなみにフランス語でこのようないわゆるサードプレイス(Third place)は"Tiers-lieu"と言います。Tiersは3番目の、lieuは場所という意味なので、フランス語もそのままの意味です。
その後を調べたところ、案の定計画・工事は遅れており、2024年も設計が続行中で、2025年末に工事着工予定、2028年に運用開始とのことです。詳しい計画の内容や敷地の歴史、Les Grands Voisinsの経緯や様子などが下記ウェブサイトにまとめられています。https://mairie14.paris.fr/pages/le-projet-saint-vincent-de-paul-11216
Comments